総ての生きものが 躍動をはじめる季節

 陽射しは 想像を越える速さで  残雪のブナの森を変える。
早春 村里に近いブナ山を ウオッチングした。 ブナの森は まだ雪が深く カンジキに頼らなければ 一歩も踏み入れない。 豪雪に耐えかねた古木がポッキリ折れて 残雪の上に横たわり その姿は痛々しい。 枝先の冬芽は わずかな温みを取り込み 少し膨らんでいた。 青空 太陽の光は眩しく またたく間に森の木々を暖める。 ブナたちは 根もとの雪を融かし 根穴をひろげ やってくる活動の季節にそなえ 生の営みへ身支度をととのえ 冬ごもりに別れを告げる。
彼らは休眠から目覚めると 冬芽の鱗片を脱ぎ捨て みずみずしい若葉を広げながら 高みへと上って行く。
にこげ(和毛)に包まれた雄花と雌花は 若葉といっしょに出てくる。 葉を広げると同時に雌花が熟し 風に乗ってやってきた他樹の雄花と受粉する。 雄花は少し遅れて開花する。
開花時期を変えることで 同一個体による受粉を避け次世代へつなぐ。 「雌性先熟しせいさきじゅく」とよばれ ブナの巧みなサバイバル戦略である。 春風がこずえをゆするたびに 放出される雄花の黄色い花粉は 大げさに言うなら春霞のようだ。
オオヤマザクラが蘇った森に 淡いピンクの彩りを 添える。
萌黄色の森に 白いタムシバの花が映えて すがすがしい。
可憐に うつむいて咲く イタヤカエデの花房が 愛らしい。
野うさぎ いたち テン 天然記念物のヤマネも 春を喜ぶ。
夜毎開かれる雪上パーティーは朝日に証拠の足跡を残す。
全ての生き物が 命の季節を感じ 活発に動き出す。

  森も 生きものも そして私たちも 心躍る。





春                            
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