ブナの森は 樹冠を 大きく 広げる。

 梅雨明けのブナの森は 湿度が高く蒸し暑い。 昼の森とは対照的に 夜明け前のブナの森は 朝露が降りて ひんやりした空気につつまれる。 この冷気と昼間の温度差が霧を発生させ 植物の活性を高める。 ブナの葉は暗緑の夏葉となり 空を埋め尽くし 30bを越すような高所で大きな樹冠を形成する。 林道に立ち 向かいの山を見渡せば もくもくと大きな緑の塊が広がり 大海原のうねりのように見える。その緑の塊りひとつひとつが一本のブナだ。ブナには存在感がある。小山のような樹冠の傘の下は 小さな王国。 ブナ王国の支配下では 多くの生きものが芳醇な恩恵を授かって 日々をエンジョイしている。
待ちどうしかった林道のゲートも開きブナの森は夏本番だ。
降るような蝉時雨が森の入口から聞こえてくる。
トンボが飛び 蝉が舞う。可憐に咲く山野草の花々に誘われ 森の奥深く入るのに適した季節。 ブナの森は一年のうちで最も落ち着いた雰囲気を漂わせている。 谷川には ブナの森から湧き出る水が 途切れなく流れ出ている。 ブナの落ち葉は幾重にも重なり豊かな保水力を保ち 緑のダムのプライドを守っている。 ちなみにブナの最長樹齢は 450年が実測されたと聞く。 そして 300年以上の大木は1町歩に数本程度という。盆祭りが過ぎ さわやかな風が 谷筋を伝わり始めると ブナたちは約半年に渡る活動期にけりをつけ 秋への旅路につく。





夏                            
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