ブナたちは足早に 冬支度を始める。

 森全体をドームのように 緑の梢が幾重にも重なり そらが見えぬほど葉を茂らせていたブナは 活動を終らせる。 緑色のブナの葉は しだいに淡い黄色へと変化し始める。 この時期だけに見られる 青葉と黄葉のハーモニーが見事だ。
ブナと仲良しのハウチワカエデやオオカメノキが一足早く紅葉し 深まる秋を美しく演出する。山葡萄の深紅の彩りがひときわ目立つ。 季節が進み 太陽はすこしづつ 南へさがる。 やがて 樹冠の隙間から秋晴れの空が覗く。 陽射しがブナの根元や林床の笹に射し込むと 森の気温は上がり 気持が良い。
淡い黄色から 茶褐色に変化したブナ達は ゆっくりと しかし着実に水分を失いながら 葉を枯らす。 木枯らしが吹き荒れる日が増えて 大量の落ち葉が散る。 秋の昼下がりハラハラと のどかに地上に向かっていた落葉を 北風が吹き上げる。
落ち葉は谷筋からやってきた風に天高く舞い上がる。 横風に巻かれ 遠くへ飛んでいく落ち葉。 頭上でヒューヒューうなる風が不気味だ。森は風の音と乾いた枯葉のざわめきで騒々しい。 やがて吹き荒れた風が止み ほとんどの枯葉が散ってしまうと ふたたび森に静寂と明るさが戻ってくる。
ある日 突然夕陽の強い光が射し込み 目に映るもの全てが輝き ブナの森は錦絵のような 光景に包まれた。 透過光のブナの葉は黄金色に染まり 紅葉は深紅に輝く。 秋の光りが演出する壮大な錦絵が眩しい。 あまりの美しさにため息がでる。 夕暮れの光芒は 自然のキャンバスに 壮大な壁画を描いて見せた。 景色に見とれた一瞬の時が過ぎると 再び秋の寂しげなトワイライトが迫る。 薄明かりに包まれた秋の山を眺めていると 少し物寂しい気持になるのは なぜだろうか。





秋                            
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