「あがりこ」 とは :
奇怪な樹形をしたブナの木のことで、専門的には、ブナの「特殊な萌芽更新」と言うらしい。 かつて、雪国の山あいの村々では、村人が薪や炭の材料として、雪上に出たブナの幹を伐採したという。伐られた部分はやがて癒合し、大小のグロテスクなコブとなった。また、伐られた部分から萌芽し、生長していった。村人のこの行為は長年にわたって繰り返され、奇妙な形のブナができあがったとされる。人間と植物、豪雪とのかかわりあいのなかから生まれた独特のブナの姿である。「あがりこ」というのは読んで字のごとく「上がった所から新しく子が生まれる」というところに由来するそうだ。 樹幹の人の背の高さよりも高いところにある「コブ」 から下が、雪の下に埋まっていた部分で、冬の雪が如何に多かったか思い知られる。
”古来ブナの森は里山の人々の生命維持装置だったと言われます。屋根が埋まるほど雪が降る豪雪地帯の生活は過酷です。晩冬畜えた薪が底をつくと、彼らは雪上に顔を出しているブナの枝先を薪にします。やがて春になりブナは目を覚まし、切られた傷を癒し成長を繰り返します。そうして出来た姿を人々は「あがりこ」と呼びます。ブナは里山の人々の生活と密接に関わり合い、命を繋いできた樹木です。” (旧版プロローグより)
作者に感銘を与えた「あがりこ」だが、奇怪な樹形をした「あがりこ」の姿が、身を挺して里山の人々を支えた「怨念」みたいなものが感じられ、暗いイメージがあって『ブナの森』写真集本編にはいれなかったのだそうだが、作者が「ブナ・フリーク」になった由縁のひとつでもあり、インターネット公開するにあたって、いれさせてもらいました。(編者記)
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